土地災害リスクの見分け方

前回のブログでは地盤の重要性についてお話ししました。前回の記事はこちらからご覧いただけます。

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今回は、土地の災害リスクの見分け方についてです。

「自然災害は同じ場所で繰り返し発生する」

液状化や地盤崩壊といった現象は、特定の条件が揃った場所で起こるものです。これらの災害は自然の原理に基づいて起こり、適切な知識があればある程度予測可能です。では、どのようにその地盤や土地の特徴を調べればいいのでしょうか? いくつかのツールを活用して確認してみましょう。

その前に災害リスクについて深堀していきます。

土地・立地のリスクとは?

なぜ災害で被害を受けるのか?

自然災害は、人が住んでいない場所ではただの自然現象
川が氾濫しても、人が住んでいなければ経済的・人的な被害は生じません。しかし、その場所に住むことで被害が発生します。

水害や土砂災害は起こるべき場所で発生する
自然の原理に従って、崖は崩れ、水は低いところに流れます。つまり、適切な土地選びができていれば、災害のリスクを最小限に抑えることが可能です。

地盤調査の目的とは?

地盤調査は、不動沈下を防ぐことが目的です。これは事実上、建物を建てる際の義務となっており、調査方法や判定基準がJIS化されています。また、調査結果に基づいて地盤改良や補償も行われています。

しかし、ここで注意が必要なのは、この調査は建物直下の5~10mの地盤を対象にしており、自然災害に対するリスク評価は含まれていないという点です。これが、あまり理解されていないケースが多いです。

出典:横山芳春氏 提供資料

災害の「誘因」と「素因」を考える

災害の被害規模を左右する要素として、災害を引き起こす【誘因(地震の大きさや豪雨の量)だけでなく、土地や地盤の素因(地形や地質)】が重要です。

例えば、同じ規模の地震でも、地盤の違いによって被害が大きく異なります。

出典:横山芳春氏 提供資料

地震対策=防災グッズ…が頭に浮かびますが、優先度的には一番最後です。生き延びてからの話です。生き延びるためにはまず、災害に巻き込まれないようにしなければなりません。

出典:横山芳春氏 提供資料

被害をもたらす自然災害の種類

ここでは、特に私たちが住む場所に影響を与える自然災害を見ていきましょう。

豪雨災害によるリスク

  1. 外水氾濫(洪水)
    大雨により河川が氾濫し、堤防を越えて浸水が起こる現象です。
  2. 内水氾濫(内水)
    排水が追いつかず、川が近くになくても起こる浸水です。
  3. 高潮
    台風や低気圧によって、沿岸部で海水が押し寄せる浸水です。
出典:横山芳春氏 提供資料

土砂災害によるリスク

  1. 土石流
    山や斜面から土石が大量に押し寄せる現象です。
  2. がけ崩れ
    急傾斜地で雨や地震などの影響で発生します。
  3. 地すべり
    長期的な雨量の蓄積や地震によって地面がゆっくりと崩れる現象です。
出典:横山芳春氏 提供資料

地震災害

地震による主な被害としては、地震の揺れによる建物の損傷・倒壊液状化現象盛土崩落津波、(火災)などがあげられます。

出典:横山芳春氏 提供資料

個人で対策ができる災害とは?

残念ながら、土砂災害や洪水など、大規模な災害に対して個人での対策は非常に困難です。このような災害に対しては、早めの避難が最も重要な対応策です。例えば、大量の水や土砂が押し寄せるような災害は、防ぎきれないことが多いため、避難のタイミングが命を守る鍵となります。

避難の重要性

避難とは、「危険な場所」から安全な場所へ移動することを指します。住んでいる場所が危険でなければ避難は不要ですが、危険になる可能性がある場合は、適切なタイミングでの避難が命を守ることにつながります。

住みかた(階高・階数・家の造り)によっても異なります。

出典:横山芳春氏 提供資料

住んでいる人が災害リスクを知る方法は?

実は、国民が日常的に自分の災害リスクを知る仕組みや法律はほとんど整備されていません。不動産取引時に「重要事項説明書」で土砂災害や津波、洪水のリスクが記載されるようにはなっていますが、これはあくまで通知のみです。したがって、「今住んでいる家や、探している不動産の災害リスクについて」は自分から情報を取得しなければなりません

ちなみに不動産取引時の「重要事項説明書」に記載が必要な項目として
①土砂災害警戒区域
②津波災害警戒区域
また2020年8月
③水害ハザードマップの通知が義務化

となっていますが、不動産取引時にハザードマップの有無や所在地を記載するのみで、取引時(実際は最終契約時)に、各区域にあたるかどうかの通知だけすればよいとなっています。実際の書類がこちら↓

国交省HPより

災害リスク地域に住む世帯数

国土交通省(社会資本整備審議会住宅宅地分科会)のデータによれば、以下のような地域に住む世帯数はかなりの数にのぼります。

  • 浸水想定地域:約991万世帯(全体の19.1%)
  • 津波浸水想定地域:約123万世帯(4.6%)
  • 土砂災害警戒区域:約157万世帯(3.0%)

合計で、約1,203万世帯(全体の23.1%)がいずれかの災害リスク地域に住んでいることになります。

人が自然災害となる自然現象の発生するところに住んでしまうことで、災害となります。
(人がいないところでがけが崩れても自然現象)

災害に強い家とは?

出典:横山芳春氏 提供資料

立地だけは後から変更することができないため、災害リスクの低い立地を選ぶことが重要です。住む場所によっては命の危険や財産を失うリスクがあります。

家の初期性能や性能維持も大事なため、耐震等級3(許容応力度計算)や防湿・防露対策、その他性能が持続する家づくりが基本となります。

リスクがあるエリアに住むのがダメではない

個人による対応が難しい災害がある場合、その災害の種類は何か?
津波?土石流?河川の洪水?
頻度・被害の程度は?
洪水、津波であれば浸水深がどのくらいか?
土砂災害であれば種類は何か?影響範囲は?
リスクがあるエリアに住むのがダメではない
避難が不要な災害もあれば、必要な災害もあることを知っていれば、避難のタイミングを逃さずに命を守ることが可能です。

そのために、まずは災害リスクの見分け方についてみていきましょう。

自然災害リスクの把握ツール

ハザードマップ

自然災害のリスクを知りたいと思ったとき、最初に確認するのが「ハザードマップ」ではないでしょうか。
多くの方が最初にアクセスするこのツールは、7~8割の災害リスク情報を把握するために有効です。
しかし、裏を返せば残りの2~3割の情報は取得できないということです。

ハザードマップは万全ではなく、想定外の災害がしばしば起きています。

出典:横山芳春氏 提供資料

例えば、2021年8月21日 市ヶ谷など冠水では、ハザードマップで浸水が想定されていなかった地域が浸水被害を受けました。このケースでは、柵の基礎が排水を阻み、水をせき止めたと推測されています。

出典:横山芳春氏 提供資料

ハザードマップのポイント

  1. 色が塗られている場合は要注意
    色が示す災害リスクを確認し、必要に応じて対策や避難を検討しましょう。
  2. 色が塗られていないからといって「安全」ではない
    マップに色が付いていないからといって、災害リスクがゼロではありません。低地や崖の近くに住んでいる場合は特に注意が必要です。

内閣府の避難フロー

内閣府が示す避難の基準も、ハザードマップだけに頼らないことを強調しています。

たとえマップで色が塗られていない地域でも、周囲の地形や市区町村からの避難情報を参考に、「必要に応じて避難」することが推奨されています。

避難行動判定フロー(内閣府防災情報)

ハザードマップは「科学的な予言書」と心理系の先生に呼ばれることがありますが、完全なものではないということに理解が必要です。

参考:警戒区域以外の土砂災害はどこで? ハザードマップをもとに全国調査 – NHK

   土砂災害警戒区域には“指定されず”…「指定外でも危険性」 | 東海テレビNEWS

   想定外の浸水…ハザードマップ見直しが急務(2019年10月29日掲載)|日テレNEWS NNN (ntv.co.jp)

   「想定外の液状化」能登半島地震を専門家が分析 | 東海地方のニュース【CBC news】

災害リスクを見極めるために参考にすべき資料

①地形の情報(地形区分・標高差など)
地形を理解することで、ハザードマップがない場所でも災害リスクを推測することができます。高低差や地層の違いによるリスクが地形には表れているため、地形情報は最も重要な判断材料です

出典:横山芳春氏 提供資料

②過去の災害履歴
その土地で過去にどのような災害が起こったかを知ることも有効です。
「災害は繰り返す」災害が発生する場所は、将来も同様のリスクを抱えている可能性が高いです。

③土地改変履歴
人工的な土地造成や開発が行われた場合、その土地の災害リスクが変わることがあります。特に大規模盛土造成地はリスクが高いとされており、注意が必要です。

④ハザードマップ

ハザードマップだけで判断しないために、上記の資料も併せて活用しましょう。

おすすめツール

横山さんが災害リスクを診断する際、毎日のように活用しているツールを3つ紹介します。
場所は大阪城にしてみます。

地理院地図地理院地図 / GSI Maps|国土地理院

国土地理院が提供する地図ポータルサイトで、ハザードマップや古地図以外は確認可能。これさえあればほとんどの情報が取得できます。
▼是非覚えてほしい機能

①地形分類(自然地形/人工地形)

自然地形:台地
この地形の自然災害リスク:河川氾濫のリスクはほとんどないが、河川との高さが小さい場合には注意。縁辺部の斜面近くでは崖崩れに注意。地盤は良く、地震の揺れや液状化のリスクは小さい。
人口地形:高い盛土地
この地形の自然災害リスク:海や湖沼、河川を埋め立てた場所では、強い地震の際に液状化のリスクがある。山間部の谷を埋め立てた造成地では、大雨や地震により地盤崩壊のリスクがある。

②明治時代の低湿地

明治期の地図から、当時の低湿地の分布を示した地図です。土地の液状化と関連が深いと考えられる区域を確認できます。

③自分で作る色別標高図

自由に色分けできる標高地図です。低地の細かい標高の変化もよくわかります。

データ作成方法の違いにより水部とその周辺等で不自然な標高差が生じる場合がありますのでご注意ください。

④断面図機能

任意の地点間の断面図を作成できます。
近隣よりも地盤が高いのか、低いのかわかる機能。水が流れていく先を予測できます。

⑤年代別の写真

1928年頃に撮影された空中写真

第二次世界大戦前から現在に至る年代別の写真を閲覧できます。

⑥近年の災害

被災後の空中写真など、災害に関する情報を閲覧できます。

平成30年(2018年)6月18日7時58分に発生した、大阪府北部を震源とする地震の震央(平成30年6月18日10時00分 気象庁発表)

重ねるハザードマップ重ねるハザードマップ

各種ハザードマップを重ねて確認できるツールです。特に「大規模盛土造成地マップ」は意外と知られていないようですが、使ってほしい機能です。

洪水・土砂災害・高潮・津波の他、道路防災情報や地形分類を重ねてみることが可能。

大規模盛土造成地

これまでの大規模地震発生時において滑動崩落等の被害が発生した盛土造成地の実態を踏まえて、谷や沢を埋めたり、傾斜地盤上に盛土した大規模盛土造成地の概ねの位置を示したものです。

(大阪城付近は無かったので、北摂に地点を変更)

大規模盛土造成地マップについて – 国土交通省

今昔(こんじゃく)マップ今昔マップ/時系列地形図閲覧サイト

過去の地形図が集約されており、人口密集地の多くをカバーしています。土地の変遷を確認するのに役立ちます。

さらに、地震の揺れやすさを確認するツール

J-SHIS MapJ-SHIS 地震ハザードステーション

全国の地盤の揺れやすさを確認できるツールです。自治体が作成している地震時の想定震度マップ液状化マップを作製されている自治体もあります。併せて確認しましょう。

地盤増幅率の確認

→ 1.28

揺れやすさの目安
(独立行政法人 防災科学技術研究所)

2.0以上の地域:特に揺れやすい

1.6以上~2.0未満の地域:揺れやすい

1.4以上~1.6未満の地域:場所によっては揺れやすい

災害調査にて

2018年北海道胆振東部地震

地震の発生した9月6日は横山さんが千歳市内(震度6弱)に宿泊。レンタカーと宿を確保して現地調査を実施。
一角のみに被害が集中。南西側で住宅沈下や道路の陥没が。北東側で砂の流出が目立った。
昔の地図や航空写真と比較すると、谷があった場所と一致し、盛土が指摘される。谷の上流側で土砂が流出、陥没が発生し、下流側にあふれ出たと考えられる。

能登半島地震

側方流動、液状化 発生エリア

出典:横山芳春氏 提供資料

土砂災害発生エリア

下図の黄色に塗られたエリアは土砂災害警戒区域です。
A地点は警戒区域内(西側の土砂災害)、B地点は警戒区域外。
しかし、実際土砂が起きたのは、東側から。

東側からのがけ崩れを想定した地域にはなっていませんが、両地点とも東側斜面の角度が地形図からの概算で23-25度と「30度未満」であり指定されていなかった可能性も。

出典:横山芳春氏 提供資料

能登半島豪雨災害

出典:横山芳春氏 提供資料

このように、災害リスクを読むことも可能です。

まとめ

災害リスクのある場所が必ずしも「住んではいけない場所」というわけではありません。重要なのは、リスクを正しく理解し、適切な対策を講じることです。ハザードマップや地形情報、過去の災害履歴などのツールを活用することで、リスクのある土地でも安全に生活するための準備が可能です。

土地選びの段階では、災害リスクを減らす立地を選ぶことが最も効果的です。災害リスクの回避が難しい場所であれば、災害に強い家を建てることも重要です。

最も大事なことは、リスクを「知る」ことです。知らないままでいると、災害時に対策が間に合わないことがあります。リスクを把握し、災害が起こる前にしっかりと備え、安心して暮らせる家づくりを行いましょう。

ちょうど同じタイミングで、「あだちの家。」足立建築さんのYouTubeチャンネルでも地盤について取り上げられていました。とても参考になる動画なので、ぜひご覧ください!直近で地盤のスペシャリストの方々からお話を伺う機会が立て続けにあったので、大変勉強になりました。

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