2月1日から4日間、真冬の北海道に行ってきました。
目的は観光ではなく、断熱・気密・換気の“原点”を学ぶ旅。空調設計でお馴染みの「ミライの住宅」での断熱修行の旅です。
高気密高断熱という言葉が一般化するはるか前から、北海道ではそれを法律・研究・技術指導・設計思想として積み重ねられてきました。
今回見たもの、聞いたものは、いま語られている家づくりの、そのさらに先の世界でした。
初日|1964年の防寒工法テキスト
昼過ぎに北海道イン。その日はほとんど移動で、夜はホルモン焼肉を囲みながら建築談義。
亜耕さんと久しぶりの対面。手にされていたのは1964年の寒地住宅防寒工法テキスト。
そこにはすでに結露とその防止法が書かれていました。


今から60年以上前に、北海道では
「断熱・気密・換気」がセットで語られていたことに驚かされます。
宿泊先は高断熱ではないものの、窓際には温水ヒーター。半袖半パンで過ごせるほど暖かい。これが北海道の暖房文化です。
2日目|福井の家・発寒の家Ⅳで「パッシブ換気」を体感
■ 福井の家(居住者のリアルな声)
亜耕さん設計のお家の見学です。
施主様から光熱費と住み心地の資料を見せていただきました。
- 家を朝から晩まで空けていても、帰宅時の室温が20℃前後で暖かい。賃貸の時は10℃以下になっており、部屋が温まるまで2時間防寒着を着たまま部屋で過ごしていた
- 朝起きる時に布団からすんなり出られる。子供を起こすのも簡単になった
- 朝方、子供の布団をかけなおす心配がなくなり、睡眠の質がかなりあがった
- 地球にもお財布にも心と体の健康にも優しい最高の家を建てていただき、心から感謝
その他にもたくさん記載いただいていますが、実際に住んでいる人の声ほど説得力のあるものはありません。


■ 発寒の家Ⅳ(換気が見える瞬間)
ここではパッシブ換気の測定ができました。
塔屋の排気口から、ミストで空気の流れを可視化。
- 隣の窓を開ける → 気密が崩れ、換気が止まる
- 窓を閉める → 排気口から空気が流れ出す
つまり、
断熱気密住宅は、内外温度差そのものが換気動力になる
何度か講義を受けたときの映像で見たことがありましたが、この目で見て理解できる体験は衝撃でした。


3日目|南6条の家・建築指導センター・亜耕さんの講義・ピーエス
■南6条の家
今までの物件は実際に引き渡されて住まわれている物件でしたが、南6条の家は建築中の現場でした。
朝から職人さんが雪かきをされていらっしゃいました。冬の北海道の現場始まりは雪かきからです。
ここでは窓のおさまりや、基礎断熱の考え方、亜耕さんが職人さんと実際に打合せする様子が伺えました。

■ 北海道建築指導センター|北海道の住まいづくりの歩み
そこで伺った話の時系列を簡単にまとめてみました。
- 1953年「寒住法」が制定
北海道の厳しい寒さに対応する住宅づくりを後押しするために生まれた法律です。国民の声を背景に議員立法で成立した法律。 - 1955年 寒地建築研究所設立(現 北方建築総合研究所:今でも研究所として活動)
- 技術開発の拠点が出来たことにより、建築指導センターが設立、普及活動が始まる。
当時は一般の方の相談よりも工務店からの技術相談が多く、法律指導というよりも技術指導という意味合いがある。 - 北海道では、暖房燃料として石炭から灯油へと移行してきました。
しかし1970年代のオイルショックにより灯油価格が高騰し、人口増加とあいまって、暖房エネルギーの負担が大きな社会問題に。 - この頃から断熱材の普及が進み始める。当初はグラスウール50mm程度で、「入れても入れなくても大差ない」と言われるほどの厚みでしたが、1980年代に入るとようやく100mmが一般的になっていきます。
- ところが、断熱性能が向上すると今度は壁内結露や床下結露といった新たな問題が顕在化し、ナミダタケの発生など深刻な被害が各地で報告されるようになります。
- なぜそのような現象が起こるのか。研究が進む中で、1990年頃にはそのメカニズムと対策が明らかになっていきました。
そして1980年代半ばにはすでに、
「断熱・気密・換気はセットで考えなければならない」
という考え方が、北海道の住宅技術者の間で共有されるようになっていったのです。
■亜耕さんの話|北方型住宅は「性能」ではなく「学びの体系」
札幌は人口が集中し、いまや道民の5人に2人が札幌在住。都市化が進み、CO₂排出量も大きな課題となっています。そのため、北方型住宅よりさらに厳しい基準として「札幌版次世代住宅基準」が設けられています。
亜耕さんは、北方型住宅および札幌版次世代住宅基準の審議員を務め、基準の策定や見直しに関わっておられます。
建築士資格だけでは設計できない北方住宅
日本の建築教育の中に、熱環境の教育はほとんど入っていない。
北方型住宅は、一級・二級建築士の資格を持っているだけでは設計できるものではありません。
BIS(断熱施工技術者)など、熱環境を体系的に学んだ人が関わることで、はじめて成立します。
つまり、
北方型住宅を設計できる建築士 = BISレベルの熱環境理解を持つ人
ということです。
「特別な知恵」ではなく「社会の底上げ」
亜耕さんの話がすっと心に入ってくるのは、その情報公開の姿勢にもあります。
- 情報は基本的に無料
- 誰でも学べるように開かれている
- 特別な人に特別な知識を与えるものではない
技術解説本には、北方型住宅の思想からパッシブ換気の設計手法まで、具体的に解説されています。
北方型住宅で求められるのは、UA値やC値といった数値だけではありません。
- 資格を取り、学ぶこと
- 地域材を使うこと
- 街並みに配慮すること
- 高齢者にやさしい階段寸法にすること
といった、設計全般に対する思想と学びです。まさにこれは、住宅技術者全体のレベルを引き上げるための仕組みだと感じました。

北海道大学へ|森太郎先生の研究から見える「断熱と健康」の関係
北海道大学で、森太郎先生のお話を伺いました。
ちょうど学生のリクルート時期ということもあり、研究内容をまとめた資料を見せていただきながら、丁寧に解説してくださいました。


■ 日本人は「冬」に亡くなっている
非常に印象的だったのは、詳細な死亡データを扱い、そのデータを気象条件や自治体ごとの状況と重ね合わせて分析している研究でした。
- 日本では、冬季に死亡者数が増える傾向がある
- しかも、比較的温暖な地域(例:四国など)ほどその傾向が強い
この研究はすでに1980年代から2代に渡って行われていたとのこと。
今でこそ「ヒートショック」という言葉は一般的ですが、もし当時からその概念が広く知られていれば、森先生はこの分野を代表する研究者として語られていたのではないかと思います。
■ 高性能住宅群の断熱改修に関する研究
既存の高性能住宅群を対象とした断熱改修の研究についても詳しく教えていただきました。
- 補助金要件として太陽光パネルや蓄電池を設置した事例
- その後のアンケート結果や居住者の実感
- 実測データに基づく効果検証
■ 木造賃貸集合住宅の断熱改修
さらに興味深かったのは、木造賃貸集合住宅における断熱改修の研究。持ち家だけでなく、賃貸住宅においても断熱性能を向上させることが、住環境の質を大きく左右するという視点です。
断熱は「快適」のためだけではなく、人の健康や寿命に関わるテーマである
ということを、データと研究の積み重ねから強く感じる時間でした。
ピーエス株式会社|温水暖房文化と体感
体感型ショールーム「PSマダガスカル」へ。冬の長い北海道で理想の室内気候を追求したコンセプトショールーム兼湿度センターです。窓の外が-10℃の銀世界でも、室内では亜熱帯の植物が元気に育っています。PS HRヒータの自然な暖かさ、植物の蒸散作用とPS加湿器のしっとり感を体感。
敷地は約3万坪。そのうち9割が緑地で、すべて植樹されているとのこと。使用された木材は約2万トンに及び、もはや林業のスケールです。
1972年当時は石炭暖房が主流で、温水暖房はまだ一般的ではなかった時代。
そこからこの場所で、温水暖房の技術が育ち、住まいだけでなく、図書館やワインセラー、体育館といったさまざまな建築用途へと広がっていきました。
現在では本州において、冷房用途としても活用されています。
その後、工場内や館内を見学。やはり、この暖かさや空気感は体感することに勝るものはないと感じました。
夜はゲストハウスKハウスで、仲間とともに最後の夕食を囲み、北海道での学びを振り返る時間となりました。


4日目|(株)キクザワのモデルハウスへ
Kハウスで朝食を済ませ、皆さんと別れたあと、キクザワさんのモデルハウスへ向かいました。
専務取締役の菊澤さんは、40代以下の建築コミュニティ「北海道次世代の会」の会長で、若い世代でありながら、技術だけでなく経営の視点も含めて、ずっと先を見据えて考えておられる姿がとても印象的でした。
断熱の構成、換気・空調の考え方、使用している材料についても丁寧に教えていただき、北海道の住宅づくりの思想がここにも息づいていることを感じました。
同年代として、大きな刺激を受ける出会いとなりました。

まとめ
本州ではまだ、
「高断熱な家をつくる」という話が中心にあります。
しかし今回みた物件では、まったく次元の違う話がされていました。
断熱は“部材”の話ではなく、
気密は“数値”の話でもなく、
換気は“設備”の話でもない。
断熱・気密・換気・暖房を、ひとつの建築の仕組みとして設計する。
それが当たり前に実践されている住宅づくりでした。
北方型住宅の技術解説本には
パッシブ換気の具体的な設計手法まで公開されています。
しかもそれは、特別な人のための知識ではなく、誰でも学べる形で。
北方型住宅は、北海道だけの特殊解ではありません。
日本の家づくりがこれから向かうべき「設計の基準」が、すでにそこにある。
断熱材を何にするか、設備を何にするかを考える前に、まず学ぶべきことがある。
そのことを強く実感した、北海道断熱修行の旅でした。


