北海道を訪れ、北方型住宅やパッシブ換気の実例を見てきたとき、強く感じたことがあります。
断熱・気密・換気の話をしている人はたくさんいる。
けれど、その話の背景にある考え方が、決定的に違う。
同じUa値やC値を語っていても、見ている世界がまるで違う。
その違いの理由が、「BIS」という資格の存在でした。
■ 日本の建築教育には「熱環境設計」がほとんどない
建築士資格では、法規・構造・意匠を中心に学びます。
しかし、日々の暮らしに直結する「熱環境設計」について、本格的に学ぶ機会はほとんどありません。
そのため住宅設計においても、
- 断熱は「どの材料を使うか」という部材の話
- 気密は「C値はいくつか」という数値の話
- 換気は「どの設備を入れるか」という機械の話
と、どうしてもバラバラに語られがちです。
「吹き抜けは寒い」「リビング階段は冷える」「北側の部屋は寒い」
こうした“常識”も、実は断熱されていない住宅を前提にした考え方から来ています。

■ 北海道では、40年以上前から「セット」で考えられていた
一方、北海道では1980年代の時点で、すでに
「断熱・気密・換気はセットで考えなければならない」
という考え方が、住宅技術者の間で共有されていました。
結露やナミダタケ被害といった深刻な問題を経て、研究と実測に基づき、この思想が確立されていきました。
そしてその知識と技術を、体系的に学ぶ仕組みとして生まれたのがBISという資格です。
■ BISとは何か
BIS(Building Insulation Specialist)とは、
断熱・気密・換気・暖房を「ひとつの建築の仕組み」として理解し、
設計・施工に反映できる技術者であることの証明です。
Ua値やC値を知っているだけではなく、
なぜその数値になるのか
なぜその納まりにするのか
なぜその換気計画・暖房計画になるのか
それを説明できる人。それがBISを学んだ人です。
BIS/BIS-Eとは – 一般社団法人 北海道建築技術協会
■ なぜ建築士資格だけでは不十分なのか
建築士資格の中では、熱環境設計について体系的に学ぶ機会がほとんどありません。
そのため住宅設計の現場では、断熱・気密・換気・暖房が、それぞれ別の要素として扱われがちです。
一方BISでは、これらを「建物の中で起こるひとつの現象」として学びます。
この視点の違いは、設計に大きく現れます。
断熱された建物では、
- 吹き抜けは寒くならない
- リビング階段も問題にならない
- 北側大開口も快適な光になる
- 内外温度差そのものが換気動力になる
といったことが、特別な工夫をしなくても自然に起こります。
これは、部材や設備の話ではなく、建物全体の熱の流れを理解しているかどうかの差です。
実はこの問題は、理論の話ではありません。
いま現在、本州各地で、新築から数年しか経っていない住宅で、壁内結露やカビの問題が起きているという事例が増えています。

断熱材はしっかり入っている。
気密シートも施工されている。
Ua値も良い。C値も良い。
それでも結露が起きてしまう。
これは単純な施工不良という話ではなく、
断熱・気密・換気・暖房を一体で理解しないまま、高断熱化だけが先に進んでしまったことによって起きている現象です。
北海道が1980年代に経験した、ナミダタケ被害や壁内結露の問題と、
まったく同じことが、いま本州で繰り返されています。
北海道では、その反省と研究の積み重ねの中から、
「断熱・気密・換気はセットで考えなければならない」
という思想が生まれ、BISという学びの仕組みが整えられました。
つまりBISとは、単なる資格ではなく、
過去の実際の失敗から生まれた“知識の体系”でもあるのです。
■ 断熱・気密の話をしている会社を見るとき
住宅会社や設計事務所の情報を見るときは、ぜひ次の点を意識してみてください。
- BIS資格者が設計や施工に関わっているか
- Ua値やC値の話だけで終わっていないか
- 換気や暖房まで含めて、一体の話として説明されているか
この違いは、住み心地や耐久性に確実に現れます。。
■ BISは「特別な資格」ではない
BISは、特別な人のための資格ではありません。
むしろ、住宅技術者として本来学ぶべき内容を体系化したものです。
北海道では、それが「当たり前」として根付いています。
断熱・気密を語るなら、まずその背景にある学びを知っているかどうか。
BISを学んでいるかどうかは、その一つの目安になります。
断熱材や設備を選ぶ前に、まず学ぶべきことがある。
そのことを、北海道での体験を通して強く実感しました。
これからの家づくりにおいて、
「BISを学んでいるかどうか」という視点は、信頼の基準のひとつになっていくはずです。
断熱・気密は、数値の話ではありません。
暮らしと健康を支える「設計思想」の話です。
その思想を、きちんと学んだ人が関わっているかどうか。
ぜひ、家づくりを考えるときの参考にしてみてください。

