今回の構造計画スペシャリストのミーティングでは、ダイコースタイルの西田さんが作成されたプランを題材に、構造計画の視点からプランを添削・検討していきました。
単に「耐震等級を満たすかどうか」ではなく、構造区画・柱配置・基礎との関係をどう整理すれば、無駄なく安全な建物になるかという点を中心に確認しています。
2階建て・エレベーター付き住宅の検討
今回の1つ目のプランは、2階建て・エレベーター付きの住宅です。
※ 図面上で「階段」と記載されている部分のうち、小さい方がエレベーターとなっています。
構造区画の確認



全体として、構造区画(黄色線)がきれいに揃っており、非常に良い状態です。
大きな破綻はありませんが、より合理的にするために以下の調整を行いました。
柱(□)の追加。

区画の細分(青色で区分)。

また、階段(エレベーター)周りに耐力壁を設けなくても壁量が足りる場合は、
- あえて耐力壁を設けない
- それに伴って基礎の立ち上がりも減らす
という判断も可能です。
これは、スケルトンインフィル設計的な考え方で、将来的な使い勝手やコストの両面でメリットがあります。

ここからは少し話題がそれますが、エレベーター付き住宅を検討する際によく出る質問なので補足します。(興味のある方だけご覧ください)
エレベーター設置時の構造的な考え方(木造住宅の場合)
エレベーターは「構造外」として扱う
木造住宅にエレベーターを設置する場合、エレベーター自体は建物の構造体には含めません(構造外)。
- 施工時の養生梁は仮設部材
- エレベーターピットは鉄骨フレームで自立
- 鉛直荷重は木造躯体ではなく、基礎の土間スラブに伝達
そのため、鉛直荷重については木造の構造計算に直接影響しません。
検討が必要なのは「地震時の水平力」
注意すべきは、地震時に発生する水平力です。
木造住宅では、
- 固定荷重+積載荷重 → 建物重量 W
- 地震力 Qi = W × Ci
として地震力を算定し、耐力壁による耐力 Pa と比較します。
具体例
- 建物地震力 Qi = 50kN
- 壁量耐力 Pa = 55kN
→ 5kN の余力がある状態
一方、エレベーターのカタログには「地震時に X方向・Y方向それぞれ 3kN(※仮) の水平力が作用する」と記載されているケースがあります。
この程度の水平力であれば、建物全体の耐力余力の中で十分吸収可能です。
さらに慎重に評価する場合は、
- エレベーター分の水平力を固定荷重として加算
- 建物重量を増やしたうえで再度地震力を算定
することで、より安全側の評価も可能です。
このように整理すれば、エレベーター付き木造住宅でも構造的な整合性は問題なく確保できます。
平屋建て住宅の構造添削
次に、平屋建て住宅のプランを確認しました。


こちらも全体として、構造区画がきれいに揃った非常に良いプランです。
ここからは、
- 無駄な柱がないか
- 不要な耐力壁がないか
- 基礎の立ち上がりを減らせないか
といった視点で、スケルトンインフィル設計に落とし込んでいきます。
重心と剛心を見ながら整理
建物の
- 重心(重さの中心)
- 剛心(硬さの中心)
を確認し、バランスを崩さない範囲で柱と耐力壁を整理します。
変更内容
- 主寝室と押し入れの柱(□)を削減
- 玄関とリビングの間の耐力壁(赤線)を削除
- LDKを大きな区画とする(LDK黄線の枠を2つ→1つにまとめる)


これにより、基礎にも大きな変化が出ます。

※黄線は無視してください

まとめ|耐震等級3 × 経済設計という考え方
今回の添削で共通している考え方は、
- 耐震等級3は維持する
- そのうえで、無駄を削ぎ落とす(荷重がかかるところだけ構造材を)
- 構造・間取り・基礎を一体で考える
というものです。
耐震等級3は「壁を増やせば良い」わけではありません。
力の流れを整理し、必要な場所に必要なだけ配置することで、安全性とコストのバランスが取れた設計が可能になります。
これが、耐震等級3を維持したまま実現する「経済設計」の考え方です。
