施主様の要望と構造計画 @構造計画スペシャリストMTG

家づくりにおいて、施主さまの理想を形にすることは、設計者にとって最も大切な仕事のひとつです。
しかし、要望をそのまま設計に落とし込んでしまうと、耐震性や構造の合理性を損なってしまうリスクがあることも、見過ごせません。

今回は、「エコハウス大賞」優秀賞や「LIXILメンバーズコンテスト」グランプリなど、数々の受賞歴をもつ大幸綜合建設・西田さんの実例から、「施主の要望」と「構造計画」のバランスの取り方について考えてみます。

■ 施主様の要望が構造を複雑にする場面

【事例1】構造区画が成立しない間取り

外観や間取りのデザインを優先した結果、柱の配置が不揃いに。耐力壁もバラバラに配置されていました。
一見すると構造区画が整っているように見えても、平面図と構造図を重ねてみると、力の通り道に柱が通っていないという問題がありました。

ポイント
初期のプラン段階で構造区画のラインを設計に組み込むことが重要です。
外周部に耐力壁を集中させることで、内部空間の自由度を保ちながら、基礎設計も合理化できます。

【事例2】施主様の想いを優先しすぎた結果

間取りのこだわりを叶えようとしたことで構造区画が乱れ、上下階の区画が崩れてしまいました。結果として水平構面の強度確保が難しくなり、構造的に無理のあるプランに。

ポイント
ほんの45cmの壁のズレを調整するだけで、柱・壁が上下階できれいに揃い、構造的な安定とコストダウンの両立が可能になります。

【事例3】大屋根構造の工夫

大きな屋根を一体的に見せたいという要望に対し、登り梁を採用することで、構造の強度とデザインを両立。

ポイント
意匠や間取りの要望が先行しがちな場合でも、構造とのすり合わせを同時進行で行い、納まりや力の流れを意識した設計が求められます。

【事例4〜7】中庭、桁下げ、2階リビング+インナーバルコニー、オーバーハング…

複雑な間取りや屋根形状、空間の工夫が増えるほど、構造区画が崩れがちに。
特に、上下階の壁がずれたり、柱が通らない設計になってしまうと、梁を太くして“力業”で耐震性を確保するしかなくなります。

ポイント
「要望を叶える=力業」ではなく、“調整による合理化”が理想です。
要望に寄り添いつつ、構造の基本を押さえた設計が求められます。

■ 西田さんが語る課題と今後の展望

西田さんは、お客様の想いに応えようとするあまり、「構造的に無理をしてしまうことがある」と話します。
構造計算をすれば耐震性の数値はクリアできる。でも、それは過剰な梁サイズなどで支える“力任せ”の設計になりがち。

今後の課題は、構造計画を施主様にどう伝え、経済設計を取り入れるか
そのために、分かりやすく伝える工夫、そして初期段階で構造の要点を施主さまに共有する方法を模索中です。

今年のエコハウス大賞にも応募する予定とのことで、構造計画を取り入れた設計に期待がされます。

■ まとめ:要望と構造は対立ではなく“対話”

お施主様の要望と、構造の経済設計は対立するものではなく、すり合わせるべき要素です。

そのためには

  • 構造の基本的な考え方を設計者がしっかりと持つこと
  • その考えを、施主さまにわかりやすく、納得できる形で説明すること
  • 設計の初期段階から構造的に譲れないラインを確保しておくこと

が非常に重要です。

要望に寄り添いながら、長く安全に暮らせる家をつくるために。
構造設計の視点からこそできる工夫と提案が、これからの家づくりには欠かせません。

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