― 月々の支払いが安い、その裏側 ―
近年、「月々の支払いを抑えられる住宅ローン」として残クレ住宅ローン(残価設定型住宅ローン) という言葉を目にする機会が増えてきました。
広告や説明では、
- 月々の返済が軽い
- 借入額を抑えられる
- ワンランク上の家が建てられる
と、施主にとって魅力的な言葉が並びます。
一見すると「施主のための新しい住宅ローン」に見えますが、本当にそう言い切れる制度なのでしょうか。
住宅に長く関わってきた立場から、少し立ち止まって考えてみます。
残価設定型住宅ローンとは?(簡単に)
残価設定型住宅ローンとは、将来その家に残ると想定される価値(残価)をあらかじめ差し引き、残りの金額だけを月々返済する仕組み です。
例えば、
- 建築費:4,000万円
- 想定残価:1,000万円
この場合、
- 月々返済するのは 3,000万円分
- 残りの 1,000万円は、期間満了時に判断
という形になります。
よく言われるメリット
まずは、一般的に説明されるメリットです。
① 月々の返済額を抑えられる
残価分を返済しないため、毎月の支払いは確かに軽くなります。
② 借入可能額が増えやすい
返済負担率が下がるため、通常より高額な住宅を検討できる場合もあります。
③ 住宅取得のハードルが下がる
「今の家賃並みで新築が建つ」という説明は、強い後押しになります。
ここまでを見ると、確かに魅力的です。
しかし、見落とされがちなデメリット
問題は、ローン期間が終わったあとにあります。
① 借金が「終わる前提ではない」ローン
残価設定型住宅ローンは、完済をゴールとしたローンではありません。
一定期間が経過すると、必ず次の判断を迫られます。
- 残価を一括で返済する
- 住宅を売却して精算する
- 借り換えや返済条件の変更(軽減型を含む)を行う
いずれの場合も、「何もしなくても借金がなくなる」選択肢はありません。
この時点で、将来どうするかという判断を、あらかじめ組み込んだローンだということが分かります。
② 借り換え・条件変更後に起こり得る現実
借り換えや返済条件の変更を選んだ場合でも、
- 年齢が上がっている
- 収入が減っている可能性がある
- 返済期間が短くなる
といった条件が重なれば、元金が思うように減らず、利息の支払いが中心になる返済設計になることもあります。
「住み続けているのに、借金の本体がなかなか減らない」そんな状態に陥る可能性は、決して低くありません。
③ 団体信用生命保険(団信)の落とし穴
残価設定型住宅ローンでも、契約期間中は団信に加入できます。
しかし注意すべきなのは、借り換え時は再加入扱いになる点です。
- 年齢は確実に上がっている
- 健康状態が変わっている可能性がある
その結果、
- 団信に加入できない
- 条件付きでしか加入できない
といったリスクが現実的に生じます。
もし団信に加入できなければ、万一の際もローンは消えず、家族が返済を引き継ぐか、住宅を手放す選択を迫られることになります。
残価設定型住宅ローンは、誰のための制度か?
整理すると、構図はこう見えてきます。
- 金融機関:長期的に利息を得られる
- 住宅会社:契約のハードルが下がり、高額提案がしやすい
- 国:住宅取得が進み、経済が回る
一方で、
- 将来の資産価値リスク
- 老後の返済能力
- 家族への影響
これらをすべて引き受けるのは、施主側 です。
住宅が「資産」になる社会は、目指すべき方向
「住宅が資産として評価される」という考え方自体は、前向きだと思います。
- 耐震性が高く
- 劣化しにくく
- 長く住み継げる家が
- きちんと価値として評価される
そんな社会、業界は健全です。
ただし問題は、現状では、そこまでの家をつくれていない会社がまだまだ多いこと。
2025年4月に建築基準法の法改正がありましたが、その基準だけでは不十分です。
耐震等級は「取っている」だけ、
構造の中身は説明されない、
結露や劣化の話は後回し。
そんな家が本当に、将来も資産と言えるでしょうか。
制度だけが先に走ってしまっている――
そこに大きな違和感を覚えます。
これだけは確認してほしい
残クレ住宅ローンを検討するなら、住宅会社に必ず聞いてください。
- この家は 30年後も価値が残る設計ですか?
- 耐震・劣化・防露について、根拠を持って説明できますか?
- 将来、暮らし方が変わったときの選択肢まで想定されていますか?
これに明確に答えられないなら、ローン以前に、その家づくり自体を見直すべきです。
結論
残価設定型住宅ローンは、施主のための制度と言い切れるものではありません。
月々の支払いが安い理由には、必ず裏があります。
住宅は「今を楽にするための買い物」ではなく、これから何十年も、暮らしと安心を支え続ける人生の基盤です。
制度に合わせて家を選ぶのではなく、家の中身を理解したうえで、制度を選ぶ。その順番を間違えないことが、後悔しない家づくりへの、いちばんの近道だと思います。
