今回の構造計画スペシャリストのミーティングは、神奈川県で設計事務所を営むスタジオアネッロの冨田さんが手がけた狭小地の3階建て住宅についての考察です。冨田さんとは「構造塾」や「環境塾」で共に学ぶ仲間であり、狭小住宅の設計に多く携わっています。
ケース①:敷地15坪の狭小3階建て(延床28坪)
計画概要
- 建ぺい率:80%(角地緩和と準耐火建築物により+20%)
- 斜線規制:道路斜線(道路幅員×1.25)+第二種高度斜線(5m+1.25/1)
- 構造の特徴:
- オーバーハングによる上部階の拡張
- 急勾配の母屋下がり(屋根が斜めに下がる形状)
- 許容応力度計算により耐震等級3を取得


母屋下がりとは?
母屋下がりとは、高度斜線などの制約をクリアするため、建物の屋根を斜めに下げる設計手法。耐力壁の配置が制限されるため、構造計画が難しくなるという課題があります。。


反省点・課題
①柱が設けたい場所に配置できなかった
→ 3階非常用進入口部分や1階玄関部分の柱の設置が困難だった。
② 3階の2方向母屋下がりにより耐力壁の配置が困難だった。
→耐震計算の際に問題が生じやすく、間取りを決める段階で考慮する必要があった。
→結果として「梁上耐力壁(=梁の上に耐力壁が乗る)」が多くなり、構造負担が増大。

設計・構造計画のポイント
- 意匠(デザイン)を優先しすぎると、構造計画時に大きな影響が出る
- 梁上耐力壁や構造区画のズレは、耐震性能に悪影響を及ぼす
- シンプルな耐力壁の配置を意識し、構造的に安定した設計を心がける
特に狭小住宅では施主の要望を叶えながら、限られた空間を最大限に活用することが求められる。
そのためには、構造計画の理解を深め、意匠設計と一体となったプランニングが不可欠。
ケース②:敷地24坪の3階建て(延床42坪)
計画概要
- 建ぺい率:70%(準耐火建築物により+10%)
- 斜線規制:道路斜線(道路幅員×1.25)+第二種高度斜線(5m+1.25/1)
- 特徴:
- ビルトインガレージ2台分を確保(縦列駐車NG)
- 急勾配の母屋下がり
- 長期優良住宅の認定取得
- 許容応力度計算により耐震等級3を取得
- 制振ダンパー「evoltz」を採用

反省点・課題
① 上階の構造区画のズレ
→ 構造負担を考慮し、壁のラインを揃えた方が良かった。
② 耐力壁を設けたい場所に設けられなかった、
→ 施主様の要望と兼ね合いで、一部無理のある構造計画になった
→ 間取り計画段階で構造との整合性を考慮すべき

設計・構造計画のポイント
- 高度斜線による母屋下がりがあるため、水平構面の計画が難しかった。
- 構造区画を意識しながら設計を進めたため、3階建てとしては比較的良い計画になった。
- 厳しい条件下でも、工夫次第でビルトインガレージ2台確保+耐震等級3が実現可能
まとめ:狭小3階建て住宅の構造計画のポイント
✓ 意匠設計と構造設計のバランスが不可欠
✓ 耐力壁の位置を慎重に計画し、梁上耐力壁を極力避ける
✓ 施主様の要望を尊重しつつ、構造的に無理のない設計を心掛ける
佐藤塾長からのコメント
「狭小地での構造区画は本当に難しい。『構造計算ができない人が意匠設計してはダメだ』とつくづく思う。
冨田さんは構造計算もご自身でされるから、構造をイメージしながら間取りを作れる。普通の2階建てを設計する場合でも、構造のイメージは大切だが、狭小3階建てでは特に重要になる。」
今回の学び
狭小住宅の3階建て計画は、法規制・施主の要望・構造計画のバランスを取ることが難しいですが、その分学びも多いです。私がサポートしている分譲会社では3階建て住宅がほとんどですので、今後も、意匠と構造の両面から、より良い住宅設計を目指していきたいと感じました。
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