― シネジック本社視察と震災遺構から学んだ2日間 ―
12月10日〜11日の2日間、仙台へ研修旅行に行ってきました。
建築・構造の最前線を体感すると同時に、東日本大震災の記憶と向き合い、「これからの建築・まちづくりに何ができるのか」を深く考えさせられる、とても濃密な旅となりました。
1日目|木構造の未来を体現する「シネジック本社」視察
シネジックとはどんな会社か
初日は、株式会社シネジック(SYNEGIC)の本社を視察しました。場所は宮城県富谷市。
シネジックは、木造建築用ビスの開発・販売をするメーカーで、日本の木構造を支える技術開発の最前線に立つ企業です。パネリードやタルキックといったビス(ネジ)が有名で、大阪・関西万博の「大屋根リング」にも採用されています。
在来工法から中大規模木造まで、
「どうすれば木造建築をもっと強く、安全に、美しくできるか」
を追求し続けている会社だと感じました。


建物そのものが“技術のショーケース”
シネジック本社は、まさにランドマーク的な存在感を放つ建築でした。
- トラス構造やCLTをあえて現し(あらわし)にしたデザイン
- 木構造の力強さと合理性が直感的に伝わる空間構成
- 研究・開発・実験の場としての機能を兼ね備えた社屋
単なるオフィスではなく、
「この会社は技術に嘘がない」
そう思わせてくれる建築そのものでした。


実験スペースが示す“信頼できるものづくり”
特に印象的だったのが、実験スペースの見学です。
構造金物の耐力試験や破壊試験など、
実際に「壊して確かめる」姿勢を目の当たりにし、
数字やカタログ以上の説得力と安心感を感じました。
建築において、
「見えない部分ほど重要」
だからこそ、こうした裏付けのある技術が信頼につながるのだと実感します。


風通しの良い空間と、センスの良いノベルティ
建物全体は視線が抜け、上下階もゆるやかにつながる構成で、
物理的にも心理的にも“風通しの良さ”を感じる空間でした。
また、ノベルティや置いている家具やツール類もとてもおしゃれでかわいく、
「技術一辺倒ではなく、デザインや感性も大切にしている会社」
という印象が強く残りました。


2日目|震災遺構から学ぶ、命を守るための建築とまちづくり
ノープランから始まった、必然の訪問
2日目は特に予定を決めていませんでしたが、
ふらっと立ち寄ったのが震災遺構 せんだい3.11メモリアル交流館でした。
そこで目にした展示やメッセージが、
この日の行動を大きく変えることになります。
子どもたちの言葉に、胸を打たれる
展示の中で印象的だったのは、
仙台七夕の短冊「わたしたちの3.11」。
その言葉ひとつひとつに、
震災は“過去の出来事”ではなく、
今も、そして未来へ続く課題なのだと改めて気づかされました。
多重防御による減災という考え方
展示では、
- かさ上げ道路
- 防潮堤
- 避難計画
など、多重防御による減災の工夫が紹介されていました。
「完璧に防ぐ」のではなく、
被害を少しでも減らし、命をつなぐための思想。
建築や土木に携わる立場として、
非常に重みのある考え方だと感じました。


荒浜小学校へ|“その場”に立って初めてわかる現実
かさ上げ道路を体感し、見え方が変わる
メモリアル交流館で紹介されていた荒浜小学校。
案内を見て、実際に足を運ぶことにしました。
道中で目にしたかさ上げ道路を見て、
「さっき見た説明は、これのことか」と腑に落ちる感覚。
知識として知るのと、
実際に見る・歩く・体感するのとでは、
理解の深さがまったく違います。
偶然居合わせた、自衛隊の方々との研修
荒浜小学校では、
たまたま自衛隊の方々の研修が行われており、
一緒に説明を聞かせていただくことができました。
当時の校長先生によるお話は、
状況が目に浮かぶほど具体的で、
津波の恐ろしさ、判断の重さ、時間との闘いが
強烈に伝わってきました。







荒浜地区住宅基礎跡地が語る、津波の力
校舎近くの荒浜地区住宅基礎の跡地にも足を運びました。
そこには、
- 地盤がえぐられ
- 建物があった痕跡だけが残る風景
が広がっており、
自然の力の圧倒的な大きさを、言葉ではなく景色で突きつけられます。




建築に携わる者として、これから何を考えるか
今回の仙台研修旅行は、
- 技術の最前線を体感した1日目
- 命と向き合う現実を知った2日目
その両方を経験できた、非常に意味のある旅でした。
建築は、
「かっこいい」「快適」だけでは終われない。
人の命、暮らし、未来を支える力を持っている。
だからこそ、
- 技術を磨くこと
- 過去から学ぶこと
- その土地に向き合うこと
そのすべてが欠かせないのだと、深く考えさせられました。
おわりに|「良い建築」とは何かを問い続けるために
この旅で得た学びや感情を、
日々の設計や仕事にどう活かしていくか。
それを問い続けることこそが、
建築に携わる者の責任なのかもしれません。
技術と記憶、その両方を胸に刻む。
そんな良い研修旅行になりました。


